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巻頭言  他方、お店で7万円の腕時計を見れば「高い」と思うのが普通です。ところがショーウインドーで100万円、150万円の腕時計を見た後に、店内で7万円の時計を見ると「安い」と感じてしまいます。池上さんは学生に「人間は不合理な行動を取る」という事実を知ってほしかったのです。 また、不合理な行動を象徴するのが、特に日本人に顕著な「行列に並ぶ」という行動です。行列ができているお店は人気があるはずだ、いいモノに違いないと思い込み、並んでしまいます。この時、価値に対して価格が安いかどうかという合理的な判断は薄れます。 人気とは、価格や時期といった合理的な要因から非合理な要因まで、ありとあらゆる要素で揺れるものです。生きている人間の気分や気持ちが根底にあるのですから、当たり前です。その人気に基づく経済。だから、「経済は生き物」と言われるのです。 こうした、揺らぎ続ける「人気」を古典的な経済学で予測することはできません。そこで近年では例えば、一見いいかげんな人間の心理を前提とした行動を観察することから新たな経済理論を確立しよう、という「行動経済学」が生まれています。人がしっかり考えないでつい行列に並んでしまうような、目についた群衆の行動に注目して行動を選択する人の特性も、最近の経済学では「ペンギン効果」と呼ばれ、研究対象となっています。 そもそも、東西冷戦が終わり「マルクス経済学」を取り入れた社会主義国が次々と崩壊した結果、マルクス経済学を教える大学は少なくなりました。ほんの数十年前まで、日本では経済学の基礎中の基礎ともされていた分野でしたが、時代と共に陳腐化したのです。人間の行動や心理、人気が「揺れ」れば、経済学も「揺れ」るのは当然です。 それでも、私たちは変わり続ける経済の姿を追究していかなければなりません。そして経済について理解を深めることは、あなたの生活が、あなたの所属する会社が、あなたの生きる国が豊かになるためにどうしたらいいのか、その近道について考え続けることにもつながることでしょう。経済って何だろう?1 013

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