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私は、毎日アテナイで青年と対話をして過ごしていたソクラテスに、昼間は患者を診察し、夜はカフェで友人と談笑していたアドラーの姿を重ねてしまいます。今回はアドラーの多くの著書の中から『人生の意味の心理学』を名著として選びました。これは、ドイツ語を母語とするアドラーが初めて英語を使って書いた著書です。他のアドラーの著書と同様、専門用語が使われていない本書を、アドラー心理学全般について知りたい人は興味深く読むことができるでしょう。アドラー心理学は、最初に述べたように、日本ではこれまでほとんど知られていませんでしたが、アドラー心理学を哲人と青年との対話という形で紹介した『嫌われる勇気』(古賀史健との共著、ダイヤモンド社)がベストセラーになって以来、多くの人に知られることになりました。アドラー心理学に関心を持ち、さらに今度はアドラー自身の著作を読みたいという人に読んでほしいのが、この『人生の意味の心理学』です。アドラーは決して特別なことを説いているわけではありません。常日頃、常識や、他者から押しつけられる価値観に疑問を感じていた人が、常識の自明性を疑っていいことに気づくはずです。先にあげたクルト・アドラーが、父は「人間の尊厳を取り戻した」といっています。それが一体どういう意味なのかを少しずつ明らかにしていきたいと思います。7

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